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東京高等裁判所 昭和45年(行コ)60号 判決 1971年8月03日

控訴人 麹町税務署長

訴訟代理人 山田二郎 外三名

被控訴人 株式会社斉藤満平商店

主文

本件控訴を棄却する(但し、原判決主文第一項中「一六二、〇〇〇円」とあるのは、「一六〇、二〇〇円」の誤記であるから、そのように更正する)。

控訴費用は控訴人の負担とする。

事実

控訴代理人は、「原判決を取り消す。被控訴人の請求を棄却する。訴訟費用は第一、二審とも被控訴人の負担とする。」旨の判決を求め、被控訴代理人は、控訴棄却の判決を求めた。

当事者双方の事実上の主張ならびに証拠の提出、援用および認否は、次のとおり附加、補正するほか、原判決事実摘示のとおりであるから、これを引用する(但し、原判決事実摘示第二の二中「会社の役員」とあるのは、「会社の取締役」と改める)。

一  控訴代理人は、次のように述べた。

1  仮処分により職務執行停止中の中山隆三ら五名の者(以下中山ら五名という)は被控訴会社の使用人以外の者で実質的に同会社の経営に従事しているものであるから法人税法上同会社の役員に該当し(法人税法二条一五号、同法施行令七条一号)、仮りにそうでないとしても、被控訴会社は同族会社であり、中山ら五名は被控訴会社の使用人で、同族会社の判定の基礎となつた株主等であるものであり、職務執行停止中も被控訴会社の経営に従事しているから、法人税法上被控訴会社の役員に該当する(法人税法二条一五号、同法施行令七条二号)。

2  法人税法三五条一項は、役員賞与につき損金不算入を定めているから、中山ら五名が同法上の役員である以上、同人らに支給された給与は役員賞与であり、損金に算入することは許されない。

3  被控訴会社は本件係争事業年度において、多額の利益を計上しているから、本件賞与が一般従業員に対する賞与と同様、給与額の一七〇パーセントに、三年を超える勤続年数一年を増すごとに二パーセントを加算する方法によつて算定されたからといつて、中山ら五名に支給された本件賞与を(利益処分と目すべき)役員賞与ではないと評価すべきではない。

二  被控訴代理人は次のように述べた。

1  中山ら五名は実質的にも被控訴会社の経営に従事していなかつた。同人らの業務は、自ら店頭に立ち、薬の調合、小売をし、薬が不足すれば一定の金額内で仕入れをすることを内容とし、すくなくとも、そのような業務を中心的内容とするものであつた。

2  職務執行停止中の中山ら五名に対する賞与率は他の従業員に対するものと全く同率であつた。

3  藤林職務代行者は中山ら五名を従業員として使用したのであるが、薬の販売を業ととする被控訴人においては薬剤師を各店舗に配属しなければ、法律上事業を継続することができなかつたためであり(薬事法八条)、また、同代行者は、中山ら五名の給与をそのまま据え置いたのであるが、これは、当時薬剤師の世間相場からみても中山ら五名の給与は少なく(中山、都竹、高橋、片山各四万八、〇〇〇円、小早川二万五、〇〇〇円)、同人らの年令からみて、これ以上減額しては生活に支障を来たすおそれがあつたからである。この方針は大津職務代行者によつてそのまま踏襲された。

理由

一被控訴人が医薬品の卸、小売および店舗の貸付等を業とする会社であること、控訴人が被控訴人主張の事業年度のその主張どおりの法人税確定申告につき中山隆三、高橋新市、都竹鐘次、片山巨および小早川クニヨの五名(以下、中山ら五名という)に支給された賞与は役員賞与であるとして、その損金算入を否認し、被控訴人主張どおりの更正および賦課決定に及んだことは当事者間に争いがない。

二 そこで、本件更正および賦課決定に取り消すべき瑕疵があるか否かについて検討する。

法人税法二条一五号は、法人の取締役を法人税法上の役員に数え、職務執行停止中の取締役を除外する明文の規定を置いていないから、職務執行停止中であつても法人税法上役員としての地位を保有しているというべきである。しかしながら<証拠省略>に前示争いのない事実を総合すれば、次の事実を認めることができる。すなわち、被控訴会社は、斉藤実が斉藤満平薬局という商号で営んでいた個人営業を継承し、昭和一三年一〇月薬品、化粧品、衛生雑貨等の販売、輸入等を目的として設立された株式会社であつて、中山ら五名のうち小早川を除く四名は、斉藤満平薬局当時は使用人として勤務し、被控訴会社設立とともに前叙のようにその取締役に就任し、代表取締役であつた実死亡後代表取締役となつた未亡人た満をたすけ、毎月実の命日にあたる三日に仏前で取締役会を開くなどして会社の経営に協力し、昭和三四年一月二四日た満死亡後その親戚の協議により被控訴会社の経営を委譲されるようになり、本店経理部の責任者であつた小早川クニヨも被控訴会社取締役に加わつたが、右中山ら五名と親戚の一人である川口次郎との間に紛争が生じ同人の申請により、中山ら五名は、前示職務執行停止の仮処分を受けるに至つたものであること、職務執行停止の期間中被控訴会社の常務に属する意思表示はもとより医薬品の仕入れ、輸入等の金額の大枠、小切手の振出、従業員の採用、給料・昇給・賞与の決定等は代表取締役職務代行者大津民蔵において掌握し、ただ、中山ら五名のうち、小早川は従来から本店経理部の責任者であり、他のいずれも薬剤師であり、被控訴会社の具体的な商品の仕入れ、輸入、販売等に関しては中山ら五名の知識経験を必要とするところから、同人らが前示各事業場の責任者として前示枠内で計画の立案実行に当つていたこと、毎期の賞与については、中山ら五名に支給される分も一般従業員に支給されるものと同様、代表取締役職務代行者の決済のもとに、給与月額の一七〇パーセントに勤続三か年を基準とし、一年を増すごとに二パーセントを加える方法により算定され、右の算定方式は実または満在世中から続けられてきたものであつて、他に中山ら五名に対し取締役であるという理由から特別の賞与、手当等が支給されたことはないことが認められる。<証拠省略>によつても右認定を覆えすに足らず、ほかにこれを動かすだけの証拠はない。以上認定の事実によれば中山ら五名は、職務停止期間中被控訴会社の経営に従事するものではなく、単に、その特殊の知識経験から各事業場の従業員としての業務に従事していたものであり、また支給された賞与は役員としての賞与ではなく一般従業員の賞与であつたものと認めるべきである。それ故中山ら五名に対する賞与を役員賞与と認め、その損金算入を否認して行われた本件更正および賦課決定は違法として取り消しを免れない。

三 よつて、被控訴人の控訴人に対する本訴請求は正当であり、これを認容した原判決は相当であつて、本件控訴は、理由がないから民訴法三八四条一項に従いこれを棄却することとし(但し、原判決主文第一項中「一六二、〇〇〇円」とあるのは、「一六〇、二〇〇円」の誤記であること明白であるから、そのように更正する)、控訴費用の負担につき行訴法七条、民訴法八九条、九五条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官 西川美数 園部秀信 森綱郎)

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